まなび、はたらきに小さな発見
文房具・雑貨・家具のニュース情報サイト

まなび、はたらきに小さな発見
文房具・雑貨・家具のニュース情報サイト

大きな困難だって乗り越えられるかもしれない…小説の中のノート術

文房具

うちのめされた時にはこのシンプルさが役に立つ
  • うちのめされた時にはこのシンプルさが役に立つ
  • 真ん中で分割する方法はこちらの本にも載っています
 前回に引き続き、フィクションの中のノート術を紹介したい。今回取り上げるのは、映画ではなく小説である。

 2月に発売された新刊も話題の村上春樹の小説中に、印象的なノートの使い方をしている場面がある。第一作『風の歌を聴け』(講談社文庫)の冒頭。語り手である主人公〈僕〉が、十代の頃の自分について回想している部分だ。

 当時十代だった〈僕〉は、文章を書くことについてある大きな発見をする。しかし、しばらくしてそれが誤解だったと知る。〈僕〉はノートの真ん中に線を引き、左側に誤解している期間の中で得たものを、右側に失ったものを書き出していく……。

 これが今回紹介したいノート術だ。状況は違えど、似たような使い方をしている人は多いかもしれない。〈僕〉は何のためにこんなことをしたのだろうか。おそらく、混乱を鎮めるためだろう。

 自分が何か大きな「発見」をしたと思って舞い上がったことは、誰しも一度はあるのではないだろうか(筆者はしょっちゅうある)。その「発見」が、実はまるっきり間違ったものだと知った時のショックといったらない。足元に突然、大きな穴が空いたようなものである。自分の立っている場所がなくなったら、誰だって怖い。混乱する。

 十代の少年であればなおさらだ。自分の中だけでの問題であればまだ良いが、周囲に対する振る舞いなどに出てしまっていたのであれば、強い後悔に苛まれることとなる。

 小説の中の〈僕〉は、現状を把握するためにノートを書く。ただ書き出すだけではなく、ノートを「得たもの」と「失ったもの」の2つに区切る。これが、単なる内容の見やすさだけでなく、自分がやらかしてしまったことの重大さを知るためには効果的な手段となる。実際、〈僕〉は右側に書くことが多過ぎて居たたまれなくなり、最後まで書き通せずに終わる。

 ノートは記録手段であると同時に、頭の中を映す鏡でもある。自分がいま何を考え、どんな悩みを抱えているのかといったことは、冷静な時ならいざ知らず、混乱している時には把握しづらいものだ。だから、手を動かしてノートに書き出す。文字として見ると、客観的に物事を眺められるし、混乱した頭を冷やすことも出来る。

 だが、頭の中にあるものをそのまま紙の上に広げるのは、実は結構難しい。自由研究のテーマ決めに悩むのと同じ原理である。どこから始めれば良いかわからず、いざ書き始めてみてももどかしいぐらい言葉が出てこなかったりする。

 そんな時、〈僕〉がやったような、ノートを区切る方法が活きてくる。大まかなルールを決め、それに従うのだ。項目が決められている分、具体的な言葉が出てきやすい。「得たもの」「失ったもの」でなくても、「変わったこと」「変わらないこと」など、正反対の項目を並べるだけなので、手軽に実践できるのも大きな利点だ。

 と、ここまで色々と書いてきたものの、〈僕〉がこのノートを使って立ち直るような描写は作中にはない。ただ虚しさを覚えているだけだ。

 だが、こうしたノートを作ることは、決して無駄にはならないように思う。問題が解決したり、時間が経てば忘れてしまう「悩んでいた事実」が、そのノートには記され続けることになるのだ。過去の失敗を振り返り、教訓を得ることぐらいはできるかもしれない。

 因みにこの作品、文庫本にして160ページと、大変短い(字も少なめ)。「村上春樹の名前は知ってるけど長い小説はちょっと……」という方にもぜひおすすめの一冊だ。

東十条王子
鉛筆シャープの書き心地に夢中です。落書きばかりしています。文房具に関する知識はまだまだなので、勉強していきたいと思います。ちなみに名前は駅名です。どこかの王族ではありません。

《東十条王子》

関連記事

文房具 アクセスランキング

  1. ミュージシャンのお道具箱(その2)~INSPi北の音楽的文房具「ノート」~

    ミュージシャンのお道具箱(その2)~INSPi北の音楽的文房具「ノート」~

  2. ノートを仕事用に「武装」する~ノートカバーの地味な進化~

    ノートを仕事用に「武装」する~ノートカバーの地味な進化~

  3. こんなにおしゃれな使い方も! 「測量野帳」のステキ活用術

    こんなにおしゃれな使い方も! 「測量野帳」のステキ活用術

  4. ルーズリーフケースの地味な進化~もう「あの袋め!」とは言わせない~

  5. 必見!ママ手帳術~家族の予定管理も日々のメモも1冊で~

アクセスランキングをもっと見る

特集