まなび、はたらきに小さな発見
文房具・雑貨・家具のニュース情報サイト

まなび、はたらきに小さな発見
文房具・雑貨・家具のニュース情報サイト

恥ずかしい過去だって魅力に変えられるかもしれない…小説の中のノート術

文房具

恥ずかしい過去だって魅力に変えられるかもしれない…小説の中のノート術
  • 恥ずかしい過去だって魅力に変えられるかもしれない…小説の中のノート術
  • コクヨのシンプルノート術
 大抵のノートは自分で見返すためにとるものだ。だが、人に見られることを前提に書かれたノートもある。「手記」と呼ばれるのがそれに当たる。

 手記とは、ある出来事について自分の体験や感想を書いた文章だ。手紙とは違い、多数の読者に向けて書かれることが多い。そうした性質からか、手記の形をとった小説作品も少なくない。

 太宰治の『人間失格』もその一つだ。

 とある小説家が、ひょんなことから三冊のノートと三枚の写真を手に入れる。写真はそれぞれ一人の男の幼少期、学生時代、青年時代を写したもので、ノートは彼がその半生を綴った手記だという。

 本編は、小説家が入手した手記をそのまま載せる形で構成されている。小説家は冒頭の「はしがき」と最後の「あとがき」で顔を見せるのみ。それ以外の大半の部分に出てくる一人称「自分」とは、手記の書き手である大庭葉蔵なる人物を指す。

 「恥の多い生涯を送って来ました。」という書き出しで始まる第一の手記には、東北の裕福な家庭で育った葉蔵が、幼い頃より抱えてきた心の闇がその成り立ちから詳細に記されている。続く第二の手記では学生時代の出来事が、第三の手記ではある事件を経た後の葉蔵がどんどん転落していく様が描かれる。

 手記の内容は全く明るいものではない。むしろ、「自分がいかにダメな人間であるか」をアピールするかのように暗い。これらの手記を、葉蔵がどんな意図をもって書いたのか定かではないが、葉蔵が〈スタンド・バアのマダム〉にノートと写真を託し、それが小説家の手に渡った経緯を考えると、少なくとも他人に読ませる気で書いたことは確かである。

 人に読ませるつもりで書くということは、自ずと人目を気にすることにもなる。文章を綺麗に書こうとするし、伝えたいことも取捨選択する。つまり、ノートの内容を「編集」するのである。

 手記を綴った葉蔵は、作者の太宰治その人とほぼ一致する。生い立ちやエピソードに重なる部分が多いのだ。本作を書き終えた後に太宰が自ら命を絶っていることから、この作品を太宰の「遺書」として捉える向きも強い。

 ところが、自身の過去を勢いに任せ赤裸々に綴っているように見える一方で、実は何度も推敲を重ねて作り出されたという事実も判明している。やはりこの作品も、フィクションとしてしっかりと編集されているのだ。

 巧みに編集されたノートは、そこに記された本来の「ダメさ」を「魅力」に変える。読む側は、初めこそ「ダメだなこの人」と距離をとっていても、次々と押し寄せる葉蔵(太宰)の「ダメさ」の告白に、次第に共感を覚えていく。人によっては「これは自分の気持ちを代弁している」となる。初版から七十年近く経った今でもこの本が書店に並んでいるのが、読者を魅了している何よりの証拠だ。

 普通に生活していて手記を書く機会はあまりない。ましてや本作にあるような手記は、出来れば書かずに済ませたい。だが、手記ではなく日記となれば、毎日つけている人も多いだろう。

 筆者は冒頭、手記を「人に見られることを前提に書かれたノート」と述べた。手記は読者が他人であり、日記の読者は自分自身という定義もある。しかし、明日の自分は今日の自分と同じ考えを持っているかもしれないが、一年後、十年後の自分が、今の自分と同じ考えを持っているとは限らない。そうやって考えてみると、今日書いた日記を十年後に読む自分は、ほとんど他人みたいなものではないか。

 日々の出来事や思ったことをそのまま記すのももちろん良い。しかし、あえて一日の出来事を自分なりに「編集」した上で書き綴ってみるのも面白い。後で読み返した時、もしくは文章をひねっている最中に、それまで見えなかったものが見えてくるかもしれない。そして葉蔵のように「ダメさ」を「魅力」に転換できるかもしれない。

東十条王子
鉛筆シャープの書き心地に夢中です。落書きばかりしています。文房具に関する知識はまだまだなので、勉強していきたいと思います。ちなみに名前は駅名です。どこかの王族ではありません。

《東十条王子》

関連記事

文房具 アクセスランキング

  1. 今年で3回目「キャンパスアートアワード2017」最終審査…グランプリは埼玉県中学1年生の作品に!

    今年で3回目「キャンパスアートアワード2017」最終審査…グランプリは埼玉県中学1年生の作品に!

  2. ノートを仕事用に「武装」する~ノートカバーの地味な進化~

    ノートを仕事用に「武装」する~ノートカバーの地味な進化~

  3. 【2017ダイアリー診断】性格・使い方から、あなたにぴったりの手帳を診断しちゃいます!

    【2017ダイアリー診断】性格・使い方から、あなたにぴったりの手帳を診断しちゃいます!

  4. 【2018ダイアリー診断】シゴト手帳は働き方にあわせて選ぶべし♪

  5. エルモ社、書画カメラ専用ホワイトボード「マルチコミュニケーションボード」

アクセスランキングをもっと見る

特集