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読めばきっと手紙が書きたくなる? “失敗”だらけの書簡体小説の話

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歴史ある「コクヨ帳簿用紙」を使った便箋と封筒
  • 歴史ある「コクヨ帳簿用紙」を使った便箋と封筒
  • 「やっぱり日本語は縦書き!」という人には縦罫を
  • 横書き派も満足の横罫
 「書簡体小説」というジャンルがある。登場人物の書いた手紙をそのまま載せることによって物語を展開していく小説のことだ。古今東西多くの作家たちが、この形態で数々の名作を残している。

 今回はそんな中から、森見登美彦「恋文の技術」(ポプラ文庫)を紹介したい。

 主人公は京都の大学院生・守田。彼は所属する研究室の都合で、実験場のある能登で暮らすこととなる。そこで彼は、友人や先輩、かつて家庭教師をしていた時の教え子など、親しい人々に向けて手紙を書きまくる。手紙一つで女性の心を射止める「恋文の技術」を習得し恋文代筆業のベンチャー企業を興す、という野望が彼にはあった。ところが、本当に気持ちを伝えたい相手にはなかなか手紙を書くことが出来なくて――というのが主なあらすじ。

 作品は全編、守田が書いた手紙のみで構成されている。登場人物が直接出てきて会話を交わすというシーンは皆無なのだが、読み進めていくうちに不思議とそれぞれの人柄が浮かび上がってくる。また、守田が手紙を送る相手は皆、年齢も立場も異なるのだが、意外な人物同士が繋がっていたりして、バラバラに見えていたエピソードが終盤に向けてどんどん集束していく。そんなストーリー展開も見所の一つだ。

 ところで、この本が出版されたのは2009年。既に誰もが携帯電話を持ち、日本中大抵の場所からメールを送ることが出来た筈である。にも関わらず守田は、文通の腕を磨くため、紙に手書きで文章をしたためている。そこには彼の抱える「とある思い出」が関係しているのだが、この手紙でのやり取りがとても楽しそうで、時には魅力的にさえ見える。

 メールを打つのも手紙を書くのも、相手に向けた文章を書くという点では同じ目的だ。だが、メールは簡単に書き直すことが出来るのに対し、手紙では一から書き直すとなるとなかなか手間が掛かる。

 また、やり直した分だけ「失敗」も溜まっていく。これはメールやメッセージアプリなどと手紙の大きな違いだ。メールなどで書き損じたものを取っておく人は少ないだろう。相手に送ってしまうか、そうでないものは消去される。万が一失敗作を残していた場合、自分の操作ミス一つで相手に送られてしまうかもしれない危険があるからだ。

 ところが手紙なら、書き損じたものもそのままの形で手元に残る。これらの失敗作が全て無駄かといえば、そうとは言い切れない。実際作中では、守田が書いた恋文の失敗作が延々と並べられる章がある。ここで彼は自身の失敗作を自ら読み返し、分析を加える。そしてそこから「恋文の技術」の極意を見つけ出す。

 文章をしたためて相手に送るだけならば、親指を動かすだけで手軽に行える。筆者自身、いざ手紙を書くにしても、守田のように「文通武者修行」と特別な意気込みを持って取り組まなければならないほど、その行為からは遠ざかっている。もはや年賀状すら書かないほどの立派な筆無精なのだが、このまま手紙という文化が廃れてしまうのを寂しく感じるのもまた事実。この小説を読んで、久しぶりに身近な人へ一筆したためようかという気が湧いてきた。たとえどんなに失敗作を積み重ねようとも、それもまた修行のうちだ。

東十条王子
鉛筆シャープの書き心地に夢中です。落書きばかりしています。文房具に関する知識はまだまだなので、勉強していきたいと思います。ちなみに名前は駅名です。どこかの王族ではありません。

《東十条王子》

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