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みんな最初は手作業だった…未来を作る文房具の話

文房具

みんな最初は手作業だった…未来を作る文房具の話/コンパスセット
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 今回紹介したいのはロバート・A・ハインラインのSF小説『夏への扉』(ハヤカワ文庫)。夏に因んで選んだタイトルだが、主に冬の話だ。
 SFの中でも細かいジャンルが分かれていて、この作品はタイムトラベルを扱った「時間SF」に分類される。同じ仲間として「時をかける少女」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を思い浮かべてもらえればわかりやすいかもしれない。本作は、そんな時間SFの代表格に位置するといっても過言ではない。

 舞台は1970年(作品の書かれたのが1950年代なので当時の感覚からすると「近未来」になる)。ロボット製作会社を経営していた主人公ダンは、共同経営者である友人と恋人に裏切られ、全てを失う。巷で流行している冷凍睡眠(コールドスリープ)に入ろうと考えるダンだったが、いざ実行という直前、自分を陥れた二人がどうしても許せずに復讐を決意する。ところが、二人の元へ向かうも返り討ちに遭ってしまい、ダンは自分の意思とは無関係のまま冷凍睡眠に入れられてしまう。

 そんな彼が目を覚ましたのは、三十年後の西暦2000年だった。社会にはロボットが普及し、その多くはダンがかつて設計した物の発展型だった。ところが、製造元は彼が友人と経営していた会社ではない。てっきり自分を眠らせた後、友人たちが成功を収めていると思っていたダンは首を傾げる。調べてみると、会社はとっくの昔に倒産し、友人も若くして死んだことがわかる。多くの不可解な謎を抱えたまま、ダンは2000年の世界での暮らしを始める――というお話。

 過去での行いが未来での結果に繋がっていく様が読んでいて気持ちいい本作。しかし、そんなタイムトラベル要素と共に目に止まるのが、ダンが作る機械の数々だ。
 正確には、彼は元となるアイデアを考えただけなのだが(それが社会に広まっているのにももちろん秘密がある)、これが多岐にわたり、しかも今の視点から見ると、我々の身の回りにあるものと似ているものがいくつも登場する。
 中でも「製図機」という設計図を作る機械は、キーボードを装備し、キーを叩くだけで簡単に図面を引くことが出来るという代物。まさに私たちが日常で使うパソコンそのものだ。この機械が実現すればコンパスや定規を使うような面倒から技術者が解放されると、ダンは嬉々としてアイデアをこねくり回す。そして未来の世界では、この機械が実現されている。

 製図機が実用化されているということは、定規もコンパスも必要なくなったということだ。少なくとも、図面を引く際にそれらを使う人はぐっと少なくなったことだろう。2000年の世界では、文房具は肩身の狭い思いをしているのかもしれない。

 機械というものは、人が手で行なっていた作業を肩代わりする道具だ。しかも人がやるより遙かに効率的で速く精密に行なうことが出来る。
 一方、文房具というのは人が使うことを前提として作られた道具だ。当たり前のことだが、「書く」とか「切る」という行為を人がする時に使うもので、機械はこれを使ったりはしない。機械に人の作業が代替されればされるほど、文房具は必要とされなくなる。

 2000年の世界で文房具がどのような扱いをされているのか、その描写はないのでわからない。だが代わりに、ダンが1970年で製図をするシーンは度々登場する。
 ここではまだ、製図機を始めとする便利な機械の数々はアイデアとしてダンの頭の中にあるだけだ。彼はそれらを実際に作るための図面を製図台に向かって引く。使うのはもちろん、定規とコンパスだ。「面倒」で「時間の不経済」とぼやきながらも、やはり最初は文房具を使うのだ。

 ダンは決して、文房具が憎くてそれらを駆逐しようと機械を開発していったわけではない。あくまで便利なものを作って人々の生活に幸福をもたらそうという、数多の技術者と同じ志を以ってそうしたまでだ。
 むしろ、彼が冷凍睡眠に入る前に携帯していた持ち物には文房具が多い。ペンにノートに計算尺。技術者としてのダンにとって、文房具は欠くことの出来ない仕事道具だった。

 タイムトラベル、ロボットと共にもう一つ、本作を構成する重要な要素が「猫」だ。文庫本の表紙にもしっかり猫が描かれている。「猫小説」としても名高い本作。ピートという名のこの猫がどのように活躍するのかは、是非とも実際に小説を読んでいただきたい。因みに、秋から冬に掛けての話なのに何故タイトルが『夏への扉』なのかという疑問も、この猫が解決してくれる。

東十条王子
鉛筆シャープの書き心地に夢中です。落書きばかりしています。文房具に関する知識はまだまだなので、勉強していきたいと思います。ちなみに名前は駅名です。どこかの王族ではありません。

《東十条王子》

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