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50年という長期の調査で浮かび上がった「幼児教育」の効果。若林巴子氏へのインタビュー

保護者はこどもの教育に対して、早急な結果を求めがちだ。

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若林巴子(Wakabayashi Tomoko)ミシガン州立オークランド大学準教授。上智大学を卒業後、タフツ大学で修士号、ハーバード大学教育大学院にて修士および博士号を取得。アメリカのハイスコープ教育研究財団で幼児教育評価研究センター長を務めたのちに現職。ミシガンの最貧困地域に住む家族や子どもたちに質の高い幼児教育を取り入れることを目的とした数々のプロジェクトに、主任研究員として参加している。
  • 若林巴子(Wakabayashi Tomoko)ミシガン州立オークランド大学準教授。上智大学を卒業後、タフツ大学で修士号、ハーバード大学教育大学院にて修士および博士号を取得。アメリカのハイスコープ教育研究財団で幼児教育評価研究センター長を務めたのちに現職。ミシガンの最貧困地域に住む家族や子どもたちに質の高い幼児教育を取り入れることを目的とした数々のプロジェクトに、主任研究員として参加している。
  • ペリー幼児教育計画は約50年前に実施されたプロジェクトだが、「その結果は現在も幼児教育の普及に大きく役立っている」と若林氏は強調する。
  • 50歳追跡調査(幼児期に受けた教育が後にその子供にも好影響を与える)
  • ペリー幼児教育のランダム化比較試験「幼児・児童期の成果」
  • ペリー幼児教育のランダム化比較試験「成人してからの成果」
 保護者はこどもの教育に対して、早急な結果を求めがちだ。

 しかしミシガン州立オークランド大学準教授であり、幼児教育の研究を長年続けてきた若林巴子氏は、「小学校の低学年で習う勉強の知識は比較的早く教育の結果が出やすいけれど、定量化しにくい思考力や判断力などは、長い目で成果を検証していく必要があります」と語る。

 そして、長期にわたって行われた教育成果検証の具体例として、アメリカで1960年代に行われた教育研究プロジェクト「ペリー幼児教育計画」を挙げた。質の高い幼児教育のヒントを得るために、前編ではこのプロジェクトについてお聞きした。

こどものよりよい人生を支えるために教育に関わる人を支援



 若林氏が所属していたハイスコープ教育研究財団は、アメリカのミシガン州で1970年に設立された独立非営利団体で、教育を通じてこどもたちの人生の質的向上を支えることを目的に活動している。具体的には、「ハイスコープカリキュラム」と呼ばれる独自の教育カリキュラムを開発し、幼児教育に携わる教育者や保護者に情報提供や研修などの支援を行う形で普及をはかっている。

 ハイスコープカリキュラムについて若林先生は、「ハイスコープカリキュラムはOECD(経済協力開発機構)が2004年に発表した論文の中で、科学的根拠のある『世界5大幼児教育カリキュラム』のひとつ(※1)として紹介されています。カリキュラムの基本になるのは、アクティブラーニング(こどもが身の周りの人やモノ・コトと積極的に関わりながら学ぶこと)や保護者と教育者の連携といった要素で、これらは設立当初から変わっていません」と説明する。

※1:世界の代表的な保育カリキュラムを紹介した「5つのカリキュラム(Five Curriculum Outlines)」(OECD2004)「経験に基づく教育(ベルギー)」「ハイスコープ(アメリカ)」「レッジョ・エミリア(イタリア)」「テ・ファリキ(ニュージーランド)」「スウェーデンカリキュラム(スウェーデン)」

質の高い幼児教育の効果が50歳まで続くことが実証されている



 ではなぜ、ハイスコープカリキュラムがこどもたちの人生の質的向上につながると財団では考えているのだろうか。若林氏は、このカリキュラムのベースになっている教育プロジェクト「ペリー幼児教育計画」を根拠として挙げた。

「幼児教育は、成果をはかるのが非常に難しい分野です。IQや運動機能などの定量化しやすいものはともかく、人生の質に関わるとされる情緒の発達や思考力、判断力などは、『このカリキュラムによってこの力が伸びた』と言いづらいものです。しかし『ペリー幼児教育計画』では、教育を受けたこどものその後の人生を50歳までという長期にわたって調査した結果、教育・収入・犯罪・雇用・健康といった点で幼児期の教育効果が実証されたのです」



 また50歳への追跡調査により、ペリー幼児教育の効果は受けた本人だけでなくそのこどもにも好影響をもたらすこともわかっている。親がペリー幼児教育を受けている場合、そのこどももしっかりと教育を受けて安定した仕事に就き、反社会的な行動または犯罪に関わる可能性が低いとの調査結果がでているのだ。



幼児教育によってこどもの学業不振のリスクを減らせる



 ペリー幼児教育計画は、1962年から1967年にかけてデトロイト近郊で、低所得家庭に育つアフリカ系アメリカ人のこどもを対象に行われた、幼児教育に関する研究プロジェクトだ。

 この研究プロジェクトは、幼児教育の研究者であるデビッド・ワイカート氏らによって行われた。「プロジェクトが実施された背景には、1960年代における幼児教育の事情がある」と若林氏は説明する。

「1960年代はこどもが幼稚園へ通うのが一般的ではなく、幼児教育は各家庭で行われていました。つまり保護者の学歴や生活水準が低い場合は、自ずとこどもが学業不振や集団生活困難に陥るリスクが高かったのです。ですからワイカート氏らは、質の高い幼児教育によって学業不振のリスクを抱えるこどもたちの人生を好転させたいと考え、まずは幼児教育がこどもに与える影響を検証しようと考えたのです」

質の高い幼児教育は犯罪率や健康状態にも影響を与える



 検証は「ランダム化比較試験」という方法によって行われた。具体的には、低所得家庭に育つアフリカ系アメリカ人のこどもを無作為の2グループに分け、1グループにのみ、3~5歳の期間、現在のハイスコープカリキュラムのもととなる幼児教育プログラムを行ったのだ。

 この2グループに対して、プログラム実施中だけでなく、こどもたちが9歳・14歳・19歳・27歳・40歳・50歳のタイミングにも追跡調査を行っている。幼児・学童期はIQ(知能指数)や学業の取り組み方、生活習慣、成人後は学歴や収入、犯罪など調査項目は多岐にわたり、50歳時には血圧などの健康測定データも収集された。若林氏は調査結果について、「5歳時点はIQ、14歳では学校の成績と出席、19歳時点では高校の卒業率、成人後は犯罪率や持ち家率、健康状態など、すべての項目において、幼児教育を受けたグループの方がよい結果が出ている」とまとめる。




「実はIQに関しては、9歳時点でプログラムを受けたグループとそうでないグループの間で差はなくなっていました。小学校入学後の学びによって、プログラムを受けていないグループが知識をつけたためでしょう。ただし、それ以外の項目で明らかに違いがみられたので、その後も追跡調査を行うことになったのです」

つづきはこちら
《WorMo'より》

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